KORG Gadgetで学ぶ「かんたん」シンセ入門。第3回「フィルターで音色を作ろう」

シンセサイザーで音作りするやり方を、KORG Gadgetで覚える「シンセ入門」シリーズ。今回はいよいよ、音色作りそのものを担当するフィルター(VCF:Voltage-controlled filter)について学んでいきます。
今回解説するのは、以下 Dublin のガジェットパネル②の部分です。

フィルターの役割①「オシレーター波形の倍音をカットする」
いったん、シンセから少しだけ離れましょう。
私たちが、ふだんの生活の中でふれる「フィルター」とは、一体何のことでしょうか。
コーヒー豆を挽いた粉にお湯を注ぐとき、私たちはペーパーフィルターで濾過(ろか)し、おいしいコーヒーだけをいただきます。

この画像では、レンズフィルターを通ったところだけ、色彩に深みがでています。

このように、レンズを通る光やコーヒーがらなど、「要らないなものをカットする」のが、フィルターの役割です。
さて、シンセサイザーのフィルター(VCF)を考えてみましょう。
VCFの使命は、オシレーター(VCO)からやってくる波形の「不要な成分」をカットし、音を整えることです。
この「不要な成分」は、一体何でしょうか。
前回の記事で、VCOの基本波形には倍音が含まれていると知りましたが、その倍音成分のことなんですね。
倍音とはなにか
たとえば、ピアノで「ラ」(A4)を弾いたとします。
実は、基本となる音の周波数440Hzのほかにも、その2倍(880Hz)・3倍(1320Hz)・4倍(1760Hz)・5倍・6倍・7倍・・・の高さの音も、一緒に鳴っています。

基本の高さの音を基音(第1倍音)、何倍かした音たちを倍音(第○倍音)と言います。
くりかえしになりますが、シンセにおける音作りは、この不要な倍音成分をVCFでカットすることです。そこで、あえて音色を削る余地を与えるために、オシレーターで倍音を多く含む基本波形を用意しているんですね。
彫刻家が、ゴツゴツした石のカタマリを削り、思うがままの形に整えていくイメージです。

もしVCOの基本波形が、倍音を含まないツルツルした「正弦波」だとすると、削るものがないVCFは、なにもできないことになります。
ローパス・フィルター(LPF)で「カットオフ周波数から上」を削る
では、どのようにして要らないな倍音をカットし、音色を作り込んでいくのでしょうか?
教材ガジェットのDublinには、1基のVCFが用意されています。これはローパス・フィルターといって、あるポイントから下の成分だけを通過させるタイプのフィルターです。この「ポイント」のことをカットオフ周波数といい、DublinではCUTOFFノブで調節します。
下の図は、CUTOFFノブを中くらいの位置にした時のイメージ。それよりも上の周波数成分が削られていますね。

さらにCUTOFFノブを上げるとフィルターがどんどん開いていき、全開にすると、このように全ての音が通過します。

この場合、オシレーターからの基本波形そのままがアンプへ送られます。倍音成分がふんだんにあるので、とても明るい音です。
逆にCUTOFFノブを下げるとフィルターが閉じていき、音が暗くこもった感じに。ノブを絞り切ると全ての成分がカットされ、音が消えてしまいます。

以上が、ローパス・フィルターに関する解説でした。
ハイパス・フィルター(HPF)で「カットオフ周波数から下」を削る
DublinのVCFはローパス・フィルターだけですが、ほかのフィルターを装備したシンセもありますので、この際覚えてしまいましょう。
ローパス・フィルターとは逆に、カットオフから上の成分だけを通すのがハイパス・フィルターです。
CUT OFFより低い成分がバッサリ削られ、低域揃いのトラックの中では浮くので、存在感を出すことができます。

バンドパス・フィルター(BPF)で「カットオフ周波数の上下」を削る
あるポイントから上と下の成分を削る、バンドパス・フィルターが用意されたシンセもあります。
中域が強調されるので、AMラジオや、受話器から聞こえる声のような音を作るときに使えます。

フィルターの役割②「倍音を強調して、シンセらしい音色に仕上げる」
フィルターには、カットオフ付近の倍音を持ち上げることにより、シンセならではの音作りを行う役割もあります。
音色にクセをつける「PEAK」ノブ(レゾナンス)
DublinのVCFセクションには、CUTOFFノブの下にPEAKノブが用意されています。

Dublinでは「PEAK」ですが、一般的なシンセサイザーでは、レゾナンス(Resonance)と呼ばれています。
PEAKを上げると、カットオフ付近の倍音成分が強調されます。

さらに上げていくと、シンセによっては自己発振を起こし、非常に過激なサウンドになります。いかにもシンセらしい、クセのある音が作れます。
「KBD.AMT.」ノブで、カットオフの効き具合を調整する
VCFセクションには、 CUTOFFやPEAK のほかに、KBD.AMT(キーボード・アマウント)というノブがあります。

GadgetのWebマニュアルを見たところ、こう書かれていました。

むずかしい表現ですが、カットオフの効き具合と考えて良さそうです。
VCFはシンセにおける音作りのキモ!積極的に活用しよう

今回のテーマ「フィルター」でどんな音が作れるかを、3行でまとめます
- 明るい音(ド派手なメイン・メロディを担うリードなど)を作りたいとき…CUTOFFノブを上げる
- 暗い音(モコモコした味のあるシンセベースなど)を作りたいとき…CUTOFFノブを下げる
- いかにもシンセという音(ギュイーン・フォーン・ピギャーッ)を作りたいとき…PEAKノブを上げ、CUTOFFノブを派手に回す
ただしPEAKノブを上げすぎると、カットオフ付近の音が強調されるのと引き換えに、それ以外の音が目立たなくなるので、痩せた音になります。あくまで太い音で勝負したければ、レゾナンスはほどほどにした方が良いでしょう。
とにかくシンセ初心者の方は、とりあえずプリセット音色のCUTOFFノブを上げ下げして、シンセの音色変化を楽しみましょう。かんたんに音色が変化して楽しいですよ!
さて次回は、VCFで整えた音色に「抑揚」や「余韻」といった息吹をもたらすVCA(アンプ)について取り上げます。

参考文献