Sci-Fiシンセ・ガジェット「Lisbon」レビュー。手のひらに広がる宇宙サウンドとは?
2017年11月15日、KORG Gadgetは、iOS版・Mac版を同時にアップデート。
バージョンナンバー的にはマイナー・アップデートとはいえ、その中身を見ると極めて大規模、かつ重要なリプレースとなりました。
アップデートの概要は過去の記事を見ていただくとして、今回はその中でも特に大きなトピックとなった新作ガジェット「Lisbon(リスボン)」を取り上げます。
このLisbon、iOS版は有料ガジェットであるため、購入を検討されている方は参考にしていただけたらと思います。
シンセサイザーでありながらグラス型とは、意表をついたルックスですね。笑
強烈なEDMサウンド生み出すシンセシス・エンジン
早速、ポリフォニック・シンセガジェット「Lisbon」の特徴をチェックしていきましょう。
何と言っても、ダンス・ミュージック作りに欠かせないド派手なEDM向けサウンドを速攻でゲットできるのが最大の持ち味。
コルグ自慢のモデリング・テクノロジーが空間を支配する、分厚くツヤっぽいサウンドです。
サウンドの傾向としては、既存のシンセ・ガジェットでは「Wolfsburg」に似ていますね。
ただし、音作りのアプローチはかなり異なる印象です。その違いをスペック面で見てみると・・・。
VCOの数ではWolfsburgに分がありますが、エフェクト数だとLisbonに軍配が上がります。
ただしLisbon、ガジェットパネル上では1VCOですが、サウンド面で決して劣らないのには理由あるんですよね。その訳は後ほど!
極めてシンプルな音作りを実現するsynth画面
基本的な構成は、1VCO・1VCF・2LFO・2EG。重厚で複雑な音を作れるわりには非常にオーソドックス。
シンセとしての音作りは、すべてこの1画面で完結します。もう1画面はサウンドエフェクト用。
普段アナログシンセに慣れ親しんでいる方なら、すぐに音作りを楽しめることでしょう。
GENERATOR セクション
それでは、Lisbonのsysth画面を詳しく見ていきましょう。おおよそ4セクションで構成されています。
まずは、VCOにあたる「GENERATOR」セクションから。
WAVE(基本波形を選択)
Lisbonにおける音作りは、まず5種類ある基本波形(三角波・ノコギリ波・矩形波・パルス波25%・パルス波10%)のうち一つを選択することから始まります。
キラキラ系のキャラ立ちフレーズや、派手派手しいブラス系サウンドを目指すなら、倍音豊富なSawや各種Pulseを選びましょう。
もちろんLisbonは浮遊感溢れるパッド・サウンドも大得意。そんな時はTriですね!
trans(音の高さ)
トランスポーズ。
中央の0を起点に、半音単位で最大1オクターブ分、音程をシフトすることができます。
upper(倍音を強調)
このスライダーを上げると、選択した波形の高域成分が足されていきます。
10にすると、1オクターブ上でユニゾンしているように聴こえますね。
grit(ザラつき感を付加)
gritとは見慣れないパラメーター名ですが、とにかく上げるとノイジーな音になります。
ディストーションに似た感触となるので、荒々しくアグレッシヴなサウンドを狙う場合に有効かと。
diffuse(ディチューン効果)
上げると、音程がわずかにズレる感じとなり、音にうねりが生まれます。
Lisbonは1VCOですが、あたかも2基のオシレーターでディチューンしたかのような効果が。
憶測ですがLisbonは、内部的に複数のオシレーターが存在するものと思われます。
spread(定位の広がり)
上げるにつれ、音が左右にブワッと広がります。
このことも、実はオシレーターが複数あることの証左だと言えるでしょう。
Lisbonの分厚いサウンドは、このspreadやdiffuseあたりの設定がキモになります。
glide(ポルタメント)
鍵盤を弾いた時、次の音程まで滑らかに移動させることができます。
0だと無効。極短に設定すると音程が「ビュッ!」と素早く移動し、さらに上げるとゆっくり滑らかに音程が上昇(または下降)します。
FILTER セクション
LisbonのVCFは、減算型アナログシンセとして極めてオーソドックスなものですが、一応ご紹介しましょう。
フィルター・タイプ
横に伸びるスライダーで、ローパス〜バンドパス〜ハイパスのバランスを1%刻みで可変できます。
3点切り替え方式ではないのがユニーク。
env1
後段のENVELOPESセクションで「1」を選択した時に設定したADSRが、カットオフに働く量を設定。
ちなみに、このenv1は「VCF専用EG」となります。
kbd
鍵盤で弾いた音の高さによって、カットオフの変化量を変えるための設定。
プラスの値にすると音が上昇するにつれフィルターが開いていき、マイナスの値にすると音が上昇するにつれ閉じていきます。
言い換えると、プラスの値にすると音が下降するにつれフィルターが閉じていき、マイナスの値にすると音が下降するにつれフィルター開いていきます。
freq
フィルターのカットオフ周波数を設定します。
peak
フィルターのレゾナンスを設定します。
lfo1 / lfo2
Filterセクションの後段にある、LFOSセクションで設定した「LFO波形」及び「LFOのスピード」を、VCFに適用させたい場合に使用。
2基のLFOを二重がけすることができ、かなり複雑な音色変化が期待できますね。
LFOS / ENVELOPES セクション
LFOとEGはそれぞれ2系統あり、切り替えボタンを使ってパラメーターをエディットします。
WAVE(LFOの波形)
VCF、またはVCOを揺らすためのLFO波形を、5種類(TRIANGEL・SAW UP・SAW DOWN・SQUARE・SAMPLE & HOLD)の中から選択します。
freq(LFOのスピード)
右のスイッチをbpmにすると、LFOがテンポに同期。
freqノブにて、8小節〜32分音符の間でLFOのスピードを指定することができます。
keyにすると、テンポにとらわれない自由なスピード(超高速〜超低速)にできます。
adsr
VCFには音色の時間的変化を、VCAには音量の時間的変化をもたらすことができるエンベロープ・ジェネレーター。
EG1はVCF、EG2はVCA専用です。
AMP セクション
env2で設定したADSRの効果や、LFO2系統からのモジュレートを音量に対して適用する場合、その度合いを設定できます。
シーケンスに「妙味」をもたらすアルペジエーター
ズバリ、これこそLisbon屈指の美点。
実はどのガジェットにも、押さえた鍵盤内で分散和音を奏でてくれるアルペジエーター機能はありますが、あくまで鍵盤を弾いているときのみ有効。
いわば「MIDIエフェクト」な訳ですが、Lisbonのアルペジエーターは「正真正銘、分散和音する音色そのもの」を作ることができます。
このタイプのアルペジエーターは、ブリッブリなアシッドベース・サウンドが持ち味のChicagoや・・・
ピッコピコなファミコン音源Kingston(「Run!」と名付けられていますが、実際は高速アルペジエーターです)などにも実装されています。
これらを使ったことのある方は、いかにアルペジエーターが便利で有益な機能であるか、お分かりだと思います。
こいつを使うと、たとえ退屈な旋律でも躍動的かつリズミカルに激変するので、何かとアルペジエーターに頼ってしまいそうですね。
さて、そろそろアルペジエーターの詳細を述べていきたいと思います。
ARP
アルペジエーターの ON / Latch / OFF を切り替えるスイッチ。
Latch(ラッチ)とは、キー・オフした後もアルペジエーターが作動し続けるモードです。
TYPE
アルペジオのタイプ。上昇・下降・ランダム・トリガーなど、10種類の分散パターンから選択できます。
SPEED
テンポと同期するアルペジエーターのスピードを、2分音符から32分音符までの範囲で設定します。
GATE
アルペジエーターのゲート・タイムを設定します。
短くすれば歯切れよく、長くすれば伸びやな分散和音が奏でられます。
多彩で積極的なサウンドメイクを行える「独立FX」5系統
ここまでは、Lisbonの「synth」画面について解説しました。
もう一つ、シンセで作ったサウンドを更にメイクアップできる「fx」画面を見ていきましょう。
SHAPER
ウェイブ・シェイパー。
いわゆる歪み系エフェクトで、オーバードライブさせる度合いやトーン、歪み方のタイプを設定することができます。
MODULATION
モジュレーション・エフェクト。
サウンドの位相を変化させ、独特のうねりをもたらすエフェクト「コーラス」「フランジャー」「フェイザー」の中から一つを選択可能。
EQUALIZER
3バンド(high・mid・low)のパラメトリック・イコライザー。
このうちmidは、任意の周波数帯域を設定できます。
DELAY
泣く子も黙るディレイ番長はアルペジエーターと並び、あなたのシーケンスに劇的な変化をもたらす超重要fxです。
山びこのように左右へ反復させることで、単調なシーケンスが魅力的な旋律に大変身。
ステレオ空間で自由に飛び回るキラキラサウンドは、サイファイシンセ・Lisbonのキャラクターを決定付けていると言えましょう。
REVERB
最後は、宇宙シンセ・Lisbonの象徴であるリバーブ。
一般的な「room」「hall」「plate」もいいのですが、「apollo」というリバーブにご注目ください。
さながら月面に降り立ち、フワフワ歩いている気分になれるようで、ちょっとヤバいですよ。笑
負荷が高く強気な価格設定も、補って余りある輝きを放つ
今回は、KORG Gadgetの新作シンセ・Lisbonについて掘り下げました。
ここまでご覧いただいたあなたは、いかにLisbonが素敵なシンセであるかお分かりだと思いますが、あえて難点を2つほど。
まず、5系統ある独立fxなどが災いしてか、シンセ・ガジェットとしては動作が重いです。
また、Lisbonに限った話ではないのですが、通常価格1,800円(2018年1月現在)というのは、iOSアプリの別売音源としては結構強気な価格設定だと思います。
とはいえ、あたかも1VCOのシンセとして振る舞うことで簡単オペレーションを実現しつつ、分厚く煌びやかなサウンドをもたらしてくれる、創意工夫に満ちた素晴らしいガジェットに仕上がっています。
手のひらいっぱいに「宇宙」を感じたいあなた。Lisbonを試してみる価値はあると思いますよ。
それではまた。Have a nice trip!
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