KORG Gadgetが「最高のモバイル・チップチューン制作アプリ」である理由。
KORG Gadgetは、野太いキックやシンセベース、グイグイ前に出るリードサウンドが印象的。そのせいか、ダンスミュージック向きの音楽制作アプリだと言われてきました。
実際、このアプリで制作されたトラックをSoundCloudで聴くと、エレクトロニカやテクノの割合が多いようです。
しかしKORG Gadgertはチップチューン作りに強いアプリであることをご存知でしょうか?
意外なことに、モバイル・プラットフォーム上で動作するチップチューン制作環境では、今やKORG Gadgetの一人勝ち状態。
なぜKORG Gadgetが、チップチューン作りに適しているのでしょうか?一緒に考えていきましょう。
チップチューンとは?
まずはチップチューンというジャンルに耳馴染みのない方へ、簡単に紹介します。根強いファンを持つディープな世界ゆえ、浅学で恐縮ですがご容赦を…。
ざっくり言うと、ファミコンやゲームボーイっぽい、ピコピコしたサウンドを用いた音楽です。
ピコピコサウンドを、メインどころに据えた音楽とも言えるでしょう。
チップとは、ビデオゲームマシンに搭載されたICチップやLSIチップによる内蔵音源のこと。
かつて大量生産されたファミリーコンピュータやゲームボーイ、欧米で人気を博したコモドール64でPSG系音源が採用されたことから、今ではそれらのサウンドが「チップチューン」の代名詞的存在になっています。
ただし明確な定義は存在せず、「実機の内蔵音源以外、チップチューンとして認めない」という向きや「FM音源やスーファミ音源も含めるの?」「バンドやヴォーカルを加えるのもアリ?」など諸説あり、議論が絶えないようですね。
田中治久(hally)著「チップチューンのすべて」では
2001年に私は、世界初の総合的なチップチューン・ニュースサイト「VORC」を設立するにあたって、「少なくとも半分以上のパートがチップ由来の音で奏でられていること」をチップチューンの要件として定めた。この認識は広く共有されたものではないが、音楽ジャンルの変化と発展を阻害しない-つまり定義が権力になってしまわない-ぎりぎりの線で「チップチューンとは何か」という問いに答えるなら、おそらく今日でも最良の回答といえるものだろう。
と述べられています。
今回のブログでは上記の要件を採用し、
ファミコン(ゲームボーイ)音源、namco社製ビデオゲームやPCエンジンで使われた波形メモリ音源、メガドライブやアーケードゲームでお馴染みのFM音源、そしてスーパーファミコンのPCM音源すべてがチップチューン音源である。
と捉え、この記事を書いていきます。
夢のチップチューン制作環境「KORG Gadget」
冒頭、「KORG Gadgetはモバイルにおける最高のチップチューン制作アプリ」であると述べました。その理由は単純で、この分野でKORG Gadgetに肩を並べるiOSアプリが存在しないからです。
かつて iYM2151 という、アーケードゲーム等で用いられた4オペFM音源を再現したiOSアプリが存在しましたが、2017年10月現在ディスコン状態…。
KORG GadgetにはPSGや波形メモリ音源といった、数々のチップチューン音源群が搭載。いかにも「ピコピコ」しいサウンドを出すガジェットから、なんとナムコやタイトー、セガとのコラボガジェットまで。非常にマニアックなラインナップです。
ガジェット名 | タイプ | 特徴 |
---|---|---|
Kingston | シンセサイザー | ファミコン音源(PSG) |
Kamata | シンセサイザー | ナムコ音源(波形メモリ) |
Chiangmai | シンセサイザー | ハイブリッドFM音源 |
Ebina | シンセサイザー | タイトー音源(FM) |
Otorii | ドラムマシン | セガ音源(PCM) |
これほどビデオゲームに肩入れしたDAWは、他に類を見ないと断言できます。
ファミコン(ゲームボーイ)音源・・・Kingston
さてここからは、実際に各音源のサウンドを体験しながら、KORG Gadgetの魅力を探っていきましょう。
まずは、トラックをチップチューンたらしめる基本中の基本、ファミコン(ゲームボーイ)音源から。
しばしば PSG音源 とも呼ばれますが、本来は米・ゼネラルインストルメント社が開発したビデオゲーム専用チップセット GIMINI 8900 に搭載された音源チップのこと。
ファミコン音源とは別物ですが、1980年代においてはゲームのピコピコサウンドを、一括りにPSGと呼んだようですね。
そんなファミコン音源を、KORG Gadget上で再現したのがKingston。
元波形として3種類のパルス波(Pulse width 12.5%/25%/50%)、三角波、それにノイズを選べ、ファミコン音源の仕様とよく似ています。
そして見逃せないのが、音程を滑らかに変化させるスィープ機能を再現するJump!ボタン。
これをONにし、HEIGHTノブを適当にプラスにすれば音程が上がり、マイナスで下がります。とても直感的。
マ○オのジャンプ音や、シンセタムっぽいパーカッシブなサウンドを簡単に作ることができます。
こんなに可愛いらしいチップチューン・トラックも作れますよ。
波形メモリ音源・・・Kamata
ナムコ(現・バンダイナムコエンターテインメント)は1980年代はじめから、アーケードゲームのために自前の音源チップを開発。その音源方式として採用されたのが波形メモリでした。
ゼビウスやパックマンなど、優れた作品性で業界をリードしたナムコでしたが、サウンド面においても一歩抜きん出た存在だったのです。
その音源チップ C30 を、なんと本家本元・バンダイナムコスタジオのサウンドチームの協力によりガジェット化したのが、このKamata。
波形メモリ音源方式は波形そのものをエディットできるのが強みで、オリジナリティあふれる音色を作ることができます。
当時はFM音源が登場するまで、C30サウンドの表現力は一つの到達点だったと言えるでしょう。
Kamataだけで、こんなにゴージャスな作品も作れますよ。
FM音源・・・Chiangmai
FM音源方式は、ヤマハ社のデジタルシンセサイザー DX7 などで採用されましたが、同時にヤマハは、FM音源機能のワンチップ化を推進。
その結果、多くのゲーム機やパソコンにFMチップが搭載されたのです。
これまでのPSG系音源に比べ、格段にリアルな音作りが可能となった上、同時発声数も多く、圧倒的な表現力でした。
硬質かつ煌びやかなサウンドが持ち味で、キラキラしたベルやエレピ系サウンドは今でも大定番。
このFM音源チップによってビデオゲームサウンドは飛躍的に進化し、「アウトラン」「ドラゴンスピリット」「ニンジャウォーリアーズ」「グラディウスII」など、音楽性の高い作品が次々生まれました。
ヤマハが特許を持つFM音源方式。KORG Gadgetでの再現はさすがにムリだろう…。と思いきや、なんといくつかの手段によって実現するんですね。
まずは、この Chiangmai というガジェット。
正しくはFM音源ではなく、コルグ社が提唱するVPM方式(ヴァリアブル・フェーズ・モジュレーション:可変位相変調)ですが…まあ、原理的には同じです。
このChiangmaiでは、難解なFMエディットから脱却するため音作りのパラメータを大幅に省略。音作りの過程において「キャリア」や「オペレータ」など、FM音源独特の概念は一切意識されません。
しかもフィルターで音を削ることが可能という、加算方式のFM音源シンセではあり得ない仕様を持ちます。
先にあげたチップ音源に比べ再現性が低いものの、コルガジェらしく手軽でユニークなシンセ・ガジェット。80年代の雰囲気は十分に表現できるでしょう
タイトー音源・・・Ebina
Ebina(海老名)は、かつてタイトーのビデオゲームで採用されたFM音源チップ YM2203 と YM2610 のサウンドが収録されたガジェット。実機から丁寧にサンプリングされた、正真正銘、本物のチップサウンドです。
セガの「スペースハリアー」で使われたのはYM2203。Ebinaでは「ダライアス」と「奇々怪界」のプログラムで、同じチップのサウンドを使うことができます!
得意パートとしては、いかにもFMらしい鮮烈なリードや、硬質なシンセベースでしょうか。ゲームセンターの轟音下でも埋もれない、実に独特で存在感のある音を出します。実際のゲームに使われた効果音や、ドラムのワンショットサンプルも用意されていますね。
また、このEbinaは往年のFMサウンドが持ち味ではありますが、ありがちなプリセット・サンプルタンクでは決してなく、3オシレーター仕様のシンセサイザーとしての機能も有します。
カットオフで音色を整えたり、オシレーター間の音程をディチューンできますし、LFOやEGも装備。タイトー・アーケードシンセサイザーという呼び名に恥じぬ、思いのほか多彩な音作りが楽しめます。
セガ音源・・・Otorii
ナムコ、タイトーに続き、こちらはなんとセガのドラムマシン。ここまでビデオゲームとの親和性が高い音楽制作アプリは、今までにあったでしょうか?
収録タイトルは、「アウトラン」「スペースハリアー」「ファンタジーゾーン」「アフターバーナー」「ゴールデンアックス」「レンタヒーロー」「パワードリフト」の7作品。どれもカセットの形をしていますが、基本的には業務用マシンからサンプリングされています。
実際にビデオゲームで使用されたドラムサンプルや効果音、ボイスなどが豊富に用意されています。その数、486サンプル。
もちろんサンプルの音色加工も可能。パッドにアサインしたサンプルごとに、レベル・パン・ディケイ・ピッチ・サンプルリバース、ビートリピート(連打)を適用でき、ワンショットのON/OFFやサンプル同士のグルーピングも行えます。
25種類あるFXから一つを選び、キット全体に適用することも可能です。
スーファミ音源・・・Marseille / Darwin
スーパーファミコンの時代になると、サウンド面が究極的に進歩し、サンプリングが可能なPCM音源が搭載されるようになります。
ドラム・ベース・ピアノ・ストリングス……電子音ではなく生楽器のサウンドが使えるようになりました。もっとも、当時のROMカセットの容量は数十メガビットほどで、CDに比べるとかなり圧縮された音質でしたが……。
スーパーファミコンの発売は1990年ですから、ちょうど同時期、シンセ界を席巻していた KORG M1 から多くのサウンドがサンプリングされたことは、想像に難くありません。
というわけで、KORG Gadgetでは M1 を音源化した Darwin を扱うことができるのです。
誰もが耳にしたことのある M1ピアノ など、ポピュラーなPCMサウンドが大量に手に入りますよ。
Marseille も、生音系・シンセ系問わずベーシックなPCMサウンドが多く収録され、とても使えるガジェット。
メロトロンを意識したテープフルートやテープストリングスなど、いい意味でチープな音色が多いのもスーファミらしさ?を演出できるかと。
このトラックのように、他のチップチューン音源と併用すると、よりスーファミっぽくなりますね。
KORG Gadgetのトラックメイキングは「ゲーム感覚」。気軽に始めよう!
今回は、いかにKORG Gadgetがチップチューンの制作に向くアプリであるかを紹介しました。
これらの豊富なチップチューン音源と、超簡単に入力できるシーケンサーによりKORG Gadgetがチップチューン制作環境としていかに秀でているか、お分かりになったかと思います。
本格的なチップチューン作りを、片手一つでお手軽に・・・KORG Gadget。あなたも始めてみませんか?
それではまた。Have a nice trip!
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