【KGR #14】最先端のベース・ミュージック。そのトラックの作り方とは? ”Wv02 – by Soyoi”

優れたKORG Gadgetユーザーにインタビューを行い、ご自身のテクニックやノウハウをご披露いただく「KORG Gadget Recommends」。

14回目の今回は、先に行われたユーザー草の根コンペティション#GadgetSonic2019において、見事「BEST OF SONIC」に輝いたトラック Wv02 にフォーカスします。

今日的で、極めて洗練されたベース・ミュージック。

とにかく太く、押しの強いサウンドメイクが印象的で、サイドチェインウォブルといったフューチャーベース・トラック作りに不可欠なテクニックが満載です。

この、実に「今っぽい」ハイエンドなサウンドは、一体どのようにして作られているのでしょうか。これからじっくり学んでいきましょう。

制作環境

この曲の作者 Soyoi@Sho_Yoi さんに、様々なお話を伺いました。まずは制作環境について。

使用デバイスApple iPad Pro (2015)
使用アプリKORG Gadget 2
コントロールサーフェスKORG nanoKEY Studio
モニターSONY MDR-XB920

PC上のDAWで作られたとしか思えないクォリティーですが、この曲はiPad ProにインストールしたKORG Gadget 2だけで制作されています。

iPadとnanoKEY Studioで、機動的な曲作りが実現

打ち込み作業は、nanoKEY Studioを用いて行なっている模様。

nanoKEY Studioは、単4電池で駆動するBluetoothフィジコン。

コンパクトな操作パネルには25個の鍵盤が並び、画面に表示されたガジェットを直接操作できるツマミX-Yパッド、そしてドラムの入力に便利なトリガーパッドが搭載されています。

ワイヤレスで軽いので、iPadと組み合わせれば自宅はもちろん、外出先…たとえばカフェや宿泊先でも作曲を楽しめますね。

このnanoKEY Studioと、ボタンやスライダーなど様々な操作子を備えたnanoKONTROL Studio、さらに演奏しやすいMIDIキーボードmicroKEY Airの「Bluetooth三兄弟」は、KORG Gadgetと極めて緊密に連携するのでオススメです。

曲作りに用いるヘッドホンは「重低音モデル」で

そしてモニター環境は、なんとSONY MDR-XB920を選択。

このヘッドホンは、アルミ材が用いられたファッショナブルな密閉型ですが、最大の特徴は「EXTRA BASSシリーズ」と銘打たれた重低音モデルである事です。

通常、こうした「キャラの立っている」ヘッドホンで曲を作ると、どうしても地味めなサウンドに仕上がるものですが、「Wv02」のバランスは良好。

フラットな特性ゆえ、音楽的にはつまらないモニターではなく、好きなヘッドホンで気持ちをアゲながら制作する…筆者としては「アリ」だと思いますね。

トラック・シート

この楽曲は、なんと28ものトラックで構成されています。この数はおそらく、これまで紹介してきたKGRの中でも最多ではないでしょうか。

その内訳は…

ドラム系ガジェットRecife x4
Bilbao x2
Amsterdam x2
London x1
Abu Dhabi x1
シンセ系ガジェットLisbon x8
Miami x3
Phoenix x2
Brussels x2
Helsinki x1
Marseille x1
Darwin x1

全体的に見ると、かなりドラム系ガジェットが重用されている印象です。

ドラムパートの主役はRecife

とりわけ、MPCライクなドラムマシンのRecifeが4台(うち1台はサイドチェイン用のソース)と、リズム隊の主軸を担っています。

Recifeは2017年にデビューした後発ガジェットですが、かなり普及している様子。現に、今回の#GadgetSonic2019グランプリ3楽曲のすべてで使われています。

その一方で、コルガジェにおけるスタメン・ドラムマシンのLondonは1トラックのみと補助的に用いられており、他にも飛び道具にAmsterdam、ざらっとした質感が魅力のBilbao、そしてAbu Dhabiと、実にカラフルなリズム隊が形成されていました。

人気のLisbonを大量投入

シンセ系ガジェットの方を見ると、「またしても」というべきでしょうか…本作品においても宇宙シンセ・Lisbonが、なんと8発も投入されています。

これまでのKGR楽曲でも数多く使われ、人気の高いLisbonですが、この曲でも煌びやかで重厚な出音という持ち味をいかんなく発揮。

LisbonもRecifeも、欲しい音がすぐにゲットできるという共通項があり、ユーザーから好まれるのも納得できますね。

なお、この楽曲のシーン数は22。BPMは140.0です。

テクニックについて

お待たせしました。いよいよこの曲にて用いられた、様々な「技」と「裏ワザ」について語っていただきましょう。

ベースライン(ウォブル)

人気のFuture Bassにもあるような“WOBBLE”なフレーズ・音色を意識しています。

楽曲の根幹をなすベースパートは、いわゆるウォブル・サウンドが前面に押し出されています。

ウォブルは、昨今のフューチャーベース・トラックには欠かせない、派手な音色変化を伴う「凶悪で唸る」ようなサウンド。

このトラックではMiami3台Brussels2台を使い、8小節の中にグライド効果やウォブル感のある音を拍」単位で散りばめてあります。

メイン画面を拝見すると、たしかにノートをベタで伸ばさず、細かく配置されているのが分かりますね。

そしてこちらは、「シーン:D copy」「トラック 8」のピアノロール。

Miamiはモノシンセゆえ、同時に一つの音しか出ません。なのでこのようにノートを重ねて配置すると、上の音程のみが発音されます。

その際、以下の通りGLIDEがかかっているので、音程が滑らかに移動します。

つまりこの場合は「2小節目1拍裏で、それまでのF2からC3にしゃくり上がり、またすぐ元のF2に戻るウォブル」という音程変化が得られるわけです。

さて、そのウォブルベースの作り方ですが、基本的には「フィルターをLFOで揺らす」。これだけで作ることができます。

従ってウォブルを作るためのシンセは「フィルターをLFOで揺らすことのできるガジェット」ならどれでも良いのですが、とりわけMiamiは、ウォブルサウンド作りに極めて特化したガジェット。

上の画像はMiamiのガジェットパネルです。色々なツマミがありますが、キモとなるのは右の方にあるFILTERセクションLFOセクション

これら以外は、ユニークなサウンドメイクのための副次的なものと言えましょう。

使い方は簡単で、FILTERセクションのCUTOFFで音色を作りつつ、その下のLFOセクションにあるSHAPEでLFOさせる形を、RATEでFILTERをLFOさせる周期を、それぞれ定めます。

そしてWobble Depthツマミで、ウォブルさせる「深さ」(=LFOの振幅幅を可変させる)を調節すれば出来上がり。

この曲では、比較的ストレートなウォブルをキメておられますが、CUTOFFやRATEがリアルタイムで変化するパラメーターを書けば、より複雑怪奇なサウンドとなります。

ウォブルベースの作り方について詳しく知りたい方は、こちらで紹介していますのでご覧くださいませ。

バッキング(サイドチェイン)

楽曲冒頭で高らかに響く「ジャン・ジャン・ジャ〜ン…」というキメフレーズがとても印象的ですが、どのように作られているのでしょうか?

Lisbon2台使い、シンセヒットやシンセオーケストラのような重厚なサウンドとフレーズを考えました。実は4小節のコードをずっとループして出来ています(最後は違う)。

確かにオケヒっぽい音色ですが、それを本物のプリセットやサンプリングではなく、2台のシンセサイザーを使い、別の音色を重ねて表現しているのが興味深いです。

そのコード進行は、「Gm → F → E♭ → C」

シンプルなトライアドですが、ルート音だけを重複させ、各ノートをオープン気味に配置しつつ下降させるという、なかなかオシャレなボイシング。

しかもEDMらしいストレートな進行ゆえ、サウンドにキレがありますね。

そして大注目なのは、サイドチェインの使い方。

BaseMusicらしいサイドチェインを使用したコードにもLisbonを用い、単純な裏拍ではないグルーブを意識したサイドチェインの使い方をしています。

メインフレーズの後を、ノイジーな別のLisbonが追いかけるようなサウンドは、このトラックにまたとないグルーヴをもたらしています。

サイドチェインは、あるサウンド(キックなど)をトリガーに、別のサウンドの音量を「その時だけ圧縮」させるテクニック。

そうすることで、例の「ブヮッ ブヮッ ブヮッ ブヮッ…」という波打つサウンドが得られるわけですね。

実際にやってみましょう。これからやろうとしているのは「Track 1のサイドチェイン・ソースとして、Track 2を指定する」ことです。

まずは通常フレーズであるTrack 1を打ち込んでください。音源と音色はLisbon「06:Pump Lead」。

次にtrack 2にドラム系のトラック用意し、「音量を圧縮させたいタイミング」でノートを打ち込みます。

Track 2のピアノロール。このようにTrack 1のフレーズのアタマに合わせて打ち込むと効果的です。

Track 2。ガジェットはドラム音源「Recife」。この1小節をループさせている。

(参考)Track 1。

4拍目だけわざと抜いてあるのがニクいですね。この「隠し味」によって、トラックに独特のグルーヴが付けられているのです。

なお、サイドチェインのソースとなるTrack 2に用いる音色は、瞬間的なアタックの強いドラムスのキックが定番。

準備ができたので、いよいよTrack 1にサイドチェインを適用してみましょう。Track 1のミキサーセクションにあるIFXボタンをタップしてください。

表示が「Insert Effects」に切り替わるので一番上のスロットをタップし、表示されるポップアップにてSidechainをタップ。

Track 1に、インサートエフェクト「Side」がセットされました。続いてEditボタンをタップすると…

Slot 1表示に切り替わります。ここでSoueceをタップし、Track 2 / Trackを選択してください。これでサイドチェインが適用されました。

最後にTrack 2をミュートし再生してみてください。Track 2で狙ったところでTrack 1の音が圧縮されたらサイドチェイン・サウンドの完成!

サイドチェインについても解説記事がありますので、更に探求したい方はぜひどうぞ。

リード(一癖も二癖もある旋律の作り方)

リードについては、2種類の音色が用いられています。

一つ目の0:38頃から始まる、澄んだ音色が印象的なリードメロディーについては…

個人的にWaveスタイルの特徴と感じている「矩形波」を使ったものです。これはPhoenixHelsinkiで、今っぽい矩形波リードになるようにしています。

矩形波は、シンセサイザーに搭載されているオシレーター(VCO)の出力波形の一つ。

どうしてもKingstonに代表される「ピコピコ」サウンドを想起しますが、このトラックではPhoenix(09:Unison Squ)のフィルターが用いられ、音色変化を存分に効かせた大人っぽい仕上がりです。

また、Helsinki(07:Git Push)にはLOFIという「その名の通り」なパラメーターがあるのですが、これを低域に対し最大限に適用。

こうした、いい感じに音色を「濁らせる」工夫で、楽曲の雰囲気にマッチしたリードが形作られているのですね。

もう一つはLisbonの立ち上がりの遅い音色。立ち上がりが遅いのを逆手にとって、シーケンス上ではノート的に正しいタイミングよりだいぶ前にノートを配置しています。

0:51頃から入る、何ともエキゾチックで風変わりな旋律は、Lisbonの28番音色「Simple Whap」がベース。

音量・音色の立ち上がりが遅く、すぐに消えるというユニークなサウンドですが、この音色立ち上がりのピークに合わせ、一部のノートが16分音符分ほど前方へ置かれています。

つまり立ち上がりを遅い音色にしつつ、シーケンスは早めに組んでタイミングを合わせるという、非常に手の込んだ仕掛けなわけです。

こんな工夫によって、あのつんのめるようなフックの効いた旋律が実現しているとは…脱帽です!

ドラム(インサート・エフェクトをフル活用)

この曲で特徴的なタムは、Recifeの生ドラムっぽいものに、Comp/Flanger/Exciterをかけてニュアンスを変えています。

曲の冒頭や途中でド派手な立ち回りを見せるタムは、フランジャーを目一杯かけたもの。

これはRecifeの内臓FXではなく、先ほど紹介した「サイドチェイン」と同じくミキサーのインサート・エフェクトが使われています。

ご覧の通り、コンプレッサー・フランジャー・エキサイターと、3重にかけられています。

Compressor

Flanger

Exciter

こうしてインサート・エフェクトを上手に使えば、極めてインパクトのあるサウンドを作ることが可能になります。なかなか敷居は高いのですが、ぜひモノにしたいところです。

浮かんだアイディアをすぐにスケッチできるKORG Gadgetは「良き相棒」

優れたトラックメーカーにインタビューを敢行し、様々なノウハウをご披露いただくKORG Gadget Recommends。

今回は作者Soyoiさんのご協力により、これまでで最も実践的な内容だと自負しています。

最後に、見事グランプリを受賞された#GadgetSonic2019に対する想いを語ってくださいました。

KORG Gadgetで作った作品を発表される方達の、草の根的なネットワークがいろいろあるんだな、とネットで知りました。

昨年このコンペがあることに気が付いた時にはすでに終わっていて、Twitterで情報を待っていました。

GadgetSonic2019は同じ条件下で作られた作品の発表の場で、締め切りという緊張感と、フィードバックがある事が制作のテンションを上げてくれました。

ちなみに本業は、デザインやゲーム開発というSoyoiさん。お仕事の息抜きに、楽曲を作ってはSoundCloudにアップしているのだそうです。

小室哲哉氏や坂本龍一氏に影響を受け、DTMと作・編曲を始められたそうですが、KORG Gadgetについてこんなコメントを頂戴しました。

浮かんだアイディアをスケッチするのにPCでは電源を入れてる間に忘れてしまうので、その点でもKORG Gadgetは良き相棒です。

今回のKORG Gadget Recommendsは、Soyoiさんのフューチャーベース・トラック「Wv02」にフォーカスしました。

それではまた。Have a nice trip. ciao!

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