【KGR】壮大でドラマティックなFuture Bass。「Future noob – by mgnmgn」に注ぎ込まれた工夫とは?

この夏、2度目の開催となった「KORG Gadgetユーザー草の根コンペティション」#GadgetSonic2019

古今東西・老若男女。あらゆるコルガジェ・ユーザーが集結し、日頃鍛えた作曲の腕前を披露しあい、しのぎを削りあった真夏の3週間。

大会の最後には、グランプリBEST of SONIC3作品と、優秀作SONIC of the year27作品が発表され閉幕しました。

さて、当サイトでは、今年もBEST of SONICに輝いた受賞者に使用機材トラックメイク術楽曲構築のアイディアなど様々なノウハウをお伺いするインタビュー企画「KORG Gadget Recommends」(KRG)をやります。

KGR「ガジェソニ2019特集」最初のトラックメーカーはこちら!

Future noob – by mgnmgn

ポップなフューチャーベース・トラックですが、メロディーやリズム、FXなどに様々な仕掛けが施しながら、リスナーの意表を突き続ける壮大かつドラマティックな楽曲展開。

4分58秒という曲中であらゆる創意工夫が注ぎ込まれ、とても密度の濃いトラックに仕上がっています。

今回のKRGは、このグランプリの一曲にとことんフォーカスしていきます。

制作環境について

作曲者の mgnmgn@mgnmgn5 さんに、制作環境を伺いました。

使用デバイスiPad Air 2
モニター環境ヘッドホン(5,000円程度)

KORG Gadgetで曲作りを行う上で、最もミニマムな構成。

mgnmgnさんによると、当初は楽曲制作にiPhone 6を用いたそうですが、より大きな画面で操作がしたかったこと、そして追加ガジェット音源 Darwin が欲しかったということでiPadにされたそうです。

余談ながら、DarwinはKORG M1を再現した人気の高い追加ガジェットながら、iPad専用のスタンドアロン・アプリiM1を導入しなければ入手できません。

したがって、iPhoneオンリーのコルガジェ・ユーザーはDarwinを使うことができないんですね。そろそろ改善してほしいポイントです。

ただしiPadとiPhone両方をお持ちの方は、iPhone版コルガジェに「リモート・インストール」することで、Darwinを使用できるようになります。

トラック・シート

グランプリ楽曲「Future noob」のプロジェクト・ファイルを、ちょっと覗いてみましょう。

「iPad Air 2」の性能限界に挑むトラック数

この楽曲は、25トラック/15シーンで構成されています。

ドラム系ガジェットLondon x1
Recife x1
Bilbao x2
Amsterdam x1
シンセ/Key系ガジェットKingston x2
Marseille x2
Wolfsburg x4
Dublin x1
Salzburg x1
Lisbon x2
Helsinki x4
Glasgow x1
Montpellier x2
Chiangmai x1

Track 1 ~ 8

Track 9 ~ 16

Track 17 ~ 24

Track 25

シンプルな制作環境に対し、こちらはiPad Air 2の能力ギリギリまで数多くのガジェットが投入されていました。

それも、コルガジェきっての「ヘビー級シンセ」WolfsburgLisbon計6発も使い、ゴージャスで重厚なパッドが鳴り響きます。

メロディーパートには、冒頭の印象的なフレーズで使われたチップチューン音源Kingstonに、MontpellierやMarseilleなど。

そしてキラキラ・シーケンスでHelsinkiと、それぞれのガジェットの特性を熟知した音源選択がなされています。

曲の中盤、突然やってくる静謐なシーンではガラリと変わり、グランドピアノのSalzburg、「KApro Orchestral Dreams」のレガート・ストリングス音色を使用したGlasgowといったアコースティック音源を起用。

この辺りの起伏に飛んだ音源切り替え術も、聴く人を飽きさせない秘訣なんですね。

テンポはフューチャーベースらしく早めのBPM 162.0。15あるシーンは基本的にどれも16小節で構築されていて、冒頭部分と大サビ前のフィルインだけは1小節です。

テクニックについて

ここからは作者mgnmgnさんに、様々なトラックメイク術を披露していただきましょう。

メロディー作りは「スケールキーボード」で

この楽曲を制作するにあたり、mgnmgnさんはこんな思いを述べられています。

まず、今作を作る上で意識したこととして、多彩なメロディーを登場させ、ドラムにも変化をつけ、様々に緩急ある展開をさせて、一曲の中で聞く人を飽きさせないような曲にしよう、というものがありました。

その多彩なメロディーを作ることにおいて大いに役立ったのが、KORG Gadgetに標準搭載されているスケール・キーボードです。

「スケール機能」は、ユーザーが定めた特定のスケール(音階)だけを、ガジェットの鍵盤やピアノロールに表示させることで「絶対に音を外さない」演奏を実現するというもの。

スケール機能で「キー:D#、スケール:Ionian」にセットされたピアノロール。

上のキャプチャー画像をご覧ください。スケール機能で設定した「キー:D#、スケール:Ionian」通りに鍵盤が並んでいて、ピアノロールを見るとスケール外の音名がグレーアウトしていますね。

こうして全てのトラックのスケールを合わせつつ、一本指でゴージャスな和音を弾くことのできるグローバル・コード機能を併用すれば、誰でも簡単に、それも音楽理論上「間違いのない」コードやメロディーを作れちゃいます。

このキーボード上で適当に演奏をしてみることで、様々なメロディーの着想を得ることができました。

このようにスケール機能は、音楽理論に疎くてもメロディーやコードが作れ、更にはシーケンス上の打ち込みもしやすくなる、KORG Gadgetにおいてかなり価値のある機能に感じます。

そんな超便利ファンクション「スケール機能」ですが、KORG Gadgetではマイナーペンタやブルースなど馴染み深いスケールはもちろん、ハワイアン、ジプシーといった民族音楽的スケール、果ては琉球音階まで実に35種類の中から選ぶことができますよ。

メロディーに「オートメーション」をかけて甘い印象に

メロディーには「隠し味」として、ところどころにPitch Bendのオートメーションが施されています。

フレーズのアタマやお尻で音程を動かすことで、旋律がより甘い印象に仕上がっているのがお分かりでしょうか。

また、

ReverbDelayCutoffADSR等に随所でオートメーションをつけ、1つのGadgetでも異なる雰囲気の音を出したり、音が優しく消えていくような演出をしたりしています。

こうした細やかなエディットがあってこそ、トラックにカラフルな表情を付けることができるのですね。

フリーのサンプル集「SampleRadar」から現実音をサンプリング

ドラムパートは、ほぼLondonとRecifeによる2つのトラックで構成。

曲の進行にともなってドラムサンプルを大きく切り替え、リズムパートが一本調子になることを巧みに防いでいます。サンプルリバースを多用しているのも印象的。

Future系の楽曲では特に、楽曲にメリハリをつけるおかずのFxが重要になってくるように感じますし、持論としてプロの作曲家の方々はこのような「一瞬だけしか出てこない音」がとてもうまいと感じます。

ワンショット・サンプラーBilbaoも、要所要所で効果的に使われていますね。

KORG Gadgetのドラム音源は元々使えるものが多く、音の種類にはあまり困りませんでしたが「日常音」の類が欲しいと思い、「MusicRadar」で配信されている「286 free real-world FX samples」という無料サンプル集を「Bilbao」に取り込み、随所で使っております。

今mgnmgnさんが述べられたMusicRadarは、イギリス発の音楽情報サイトなんですが、なんと70,000近くのサンプル(2019年10月現在)を無料配布するSampleRadarというコーナーも運営しています。

SampleRadarでは、膨大なフリーサンプルがロイヤリティーフリーでゲットできる。

これらのサンプルファイルはwav形式、そして100%ロイヤリティー・フリー(商用利用可。ただし再配布は禁止)なので「5秒サンプラー」Bilbaoにはうってつけ。

TR-808をはじめとするドラムサンプルはもちろん、ボーカルにジャズ、テクノ、果てはアンビエントといった様々なジャンルのサンプルが大量に収録し、今も追加し続けているという、まるで「お宝島」のようなサービスです。

mgnmgnさんは286 free real-world FX samplesというサンプル集をBilbaoに取り込んでいる模様。

きしむ床板」「フードミキサー」「ポテトチップスを食べる音」「夏の雨」といった現実音の中からサンプルをチョイスし、実に変化あるバックトラックを生み出しています。

「負荷軽減」のための工夫とは?

このトラックはiPad Air 2で制作されているのですが、いまだ現役バリバリの名機といえども、そこは2014年リリースのモデル。

冒頭で述べた通り、この1曲に25ものトラックが投入され、メロディーやコードに2〜3つのガジェットをレイヤーした結果、Audio Latency2048(最遅)にしてやっと再生できる…といった具合だそう。

Audio Latencyは「バッファサイズ」のことで、この数値が多くなるほど打鍵した際の反応がモタつく反面、処理負荷が高い場合は「再生時の音切れ」を抑止することができます。

iOSの「設定」→「Gadget 2」→「Audio Latency」でレイテンシーを変更可能。

トラック数がかさんだり、古いiOSデバイスを使ったり…そんな時にもし「ブチブチノイズ」が聴こえてきたら、バッファサイズの拡張を試してみましょう。

そして…

楽曲内でFxに「Kingston」の「jump機能」を使って作った音を用いたり、「Wolfsburg」で作ったクラッシュ音を鳴らしたりしているのですが、これらの音は直接Gadgetを用いて鳴らすのではなく、それらの音が単体で鳴る「1 track 1 scene」だけの楽曲データを用意して、それをAudioファイルとしてエクスポートすることでBilbao」を通して鳴らしており、Gadget数の削減をしています。Amsterdam」内にある「An impact」の音を、Gadget数削減のためわざわざ「Bilbao」で鳴らす、なんていうズルもしております。

…いやいや、これは限られたCPU能力内でゴージャスなトラックを生み出すための、実に巧妙な工夫です!

楽曲展開上の工夫

楽曲の展開には、特にこだわられています。

最後のサビで聞く人が感動するような構成にするよう心掛けました。最初の方の盛り上がりから一旦落ち着かせ、ピアノの音と優し気なドラム、少し切ないコードからなるパートに持っていき、ピアノソロの後に最後の大サビへと向かうビルドとフィルインで気持ちを盛り上げ、サビへ入ります。

ビルドの高揚感と、フィルインでつけたコードのcutoffのオートメーション、最後にカランと鳴るカップの音には、自分でも気に入っています。

サビでは、裏拍で正直に鳴るコードや、エモーショナルにビブラートを聞かせたメロディー、変化あるドラムなど、畳みかけるように様々な要素を詰め込みました。

サビが終わり曲が終わりを迎えていくところで、曲の冒頭に登場したメロディーをもう一度用いる、という展開も気に入っています。

このトラックの持ち味は、おしゃれなフレーズや重厚なバッキングなど数多くありますが、とりわけサビに向かって展開する雄大な世界が一番の妙味だと感じます。

そのあたりを、作者自ら大いに意識して制作されているのですね。

あらゆるアイディアが注ぎ込まれているのが分かり、とても勉強になりました。

今回は、#GadgetSonic2019でのグランプリ「BEST of SONIC」のお一人mgnmgnさんから、この曲に投入されたあらゆるノウハウを、たっぷりお聞きすることができました。

お忙しい中、ご自身のテクニックを惜しげも無く披露された上、受賞曲のプロジェクトファイルまでご提供いただき大変感謝しております。

コルガジェ・ユーザーのあなたにとっても、この記事が参考になれば幸いです。

なお、このKORG Gadget Recommendsコーナーは、しばらくシリーズで連載する予定。

グランプリ作品に限らず「これぞ!」と感じた作者の方には、TwitterのDMにてお声がけしますので、よろしければご協力くださいませ。

それではまた。Have a nice trip. ciao!

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